2011年02月26日
保険の真実2
 昨日転載した日本歯科評論の記事について、私のホームページがPDFに対応していれば、内容を見ていただくことが出来るのだが、そうでないので、そこに書かれている記事の一部を紹介する事にする。

「われわれが望む報酬とは、かなりの距りがあるとしても、制度の上から、無限の医療と、有限の経済のために、時到るまで、我慢するとしても」
「実施の前から、予約的に、これに対する考慮は払うと、たしかに当局から聞いたはずだが」

 上記の記事は日本歯科評論の表紙に「補綴の差額徴収」というタイトルで書かれたものの一部である。全体の内容を要約すると、歯科の診療報酬は全般的に低いものであるが、それは有限の経済状態の中では限度があるので、ある程度は我慢するとしても、補綴処置についてはどうしても我慢できないものがある。歯科の診療報酬については当局(厚生省あるいは時の政府のことか)が考慮するといったはずであるが、まったくの音沙汰がない。ならば速やかに差額徴収制度を要求したいということである。

 日本の歯科治療費が、欧米諸国に比べ極めて低いということは、東京医科歯科大学大学院教授、川淵孝一先生が、その著書「歯科医療再生のストラテジー&スーパービジョン」医学情報社「日本の医療が危ない」ちくま新書に書かれている。これらの本はいづれもAmazonで購入することが出来る。出来れば多くの国民に歯科医療の実態について知ってほしいと思う。
 また今に至る歯科医療の問題の原点がこの日本歯科評論の記事に出ていると感じたので、ここに紹介させていただいた。

 今しきりに国の財政問題、国の借金について言われている。社会保障費が少なくてすめば、財政上は助かる。国民皆保険制度の実施にあたり、当時の経済状態からして、いくつかの無理や矛盾があったのであろう。それについて日本歯科医師会は了承し、その不足分を差額徴収という形で国に認めさせたということではないか。その制度を歯科医師たちが乱用し、結果として社会問題となり、本来の社会保障制度について論議されることなく、歯科医師が悪者になり、国や厚生省はまんまと問題を回避したというのが実態ではないだろうか。
 そしてその付けを歯科医師と患者さんが負っているのではないだろうか。

記事 日本歯科評論 1960年5月号から一部紹介

 
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2011年02月25日
保険の真実
 歯科と一般医科で最も異なる点は自由診療についてであろう。医科にも、保険適応されていない薬などがあって、その場合高額となるが、あくまで日常の診療では保険の範囲で出来る事になっている。
 ではなぜ、歯科に特有な自由診療というのがあるのだろうか?以前補綴(入れ歯やブリッジ、冠など)は多くの国では社会保障の適応ではなく、ドイツと日本が例外的に行われているという話を紹介した。実際にそれらを社会保障費に組み入れると、財政的負担が大きくなるからである。
 では国民皆保険導入時に当時の日本政府あるいは厚生省はどのような事をしたのか。非常な低額の社会保障費で歯科医師に行うようにしたのである。しかしそれでは、歯科医療が立ち行かないので差額徴収というものを認めた。しかしながら、歯科医師の中にそれらを乱用するものがいて、大きな社会問題となり、一部を除き、差額徴収を行う事を禁じられたのである。
 その一端が垣間見える資料が、父の遺品を整理していた時に出てきた。それが下記に添付する、1960年5月号の日本歯科評論である。この資料はヒョーロンパブリッシャーの許可を頂いて転載するものです。
記事の詳細についてはまた後日に
201102250823557767.jpg

 
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2011年01月18日
コンポジットレジン修復の一手 白い詰め物の話です
 今日はクインテッセンス出版の別冊「日常臨床で必ず使える コンポジットレジン修復の一手」の記事からご紹介したいと思います。
 コンポジットレジンとは主に前歯の小さなムシ歯などに使われる白い詰め物の事です。主に前歯の小さなムシ歯に使われると書きましたが、現在は材料の精度の向上により、奥歯の詰め物に使われたり、前歯のかなり大きな虫歯の治療にも使われるようになってきています。
 また削る器具にも工夫がされ、専用器具によって削る事により、ほとんどのケースで麻酔(注射)をする事なく処置が出来るようになりました。奥歯でも隣接面(歯と歯の間)からのムシ歯は以前はインレーと呼ばれる金属の詰め物をしていましたが、現在多くのケースでコンポジットレジンによって修復をしています。それにより削る範囲が小さくてすむ事、一回の処置で詰められる事。また女性の患者さんにとって、銀色などの金属色でないので、ほとんど自分の歯と同じように見える事など多くの利点があります。

 さて今回クイントの記事から紹介するのは、鶴見大学の秋本尚武先生の書かれている「コンポジットレジン修復の最新の潮流」という記事です。以下
「最後に、最新の知識と技術を持ってう蝕に対して低侵襲で審美的な治療を提供しても、この治療技術は現在の健康保険制度の診療報酬ではまったく見合わない」「私たち歯科医師は患者に最新の情報を伝え、患者の人生と健康に貢献できる最良の治療を提供したいものである。」P30
  CR修復自費料金(鶴見大学歯学部付属病院)
単純修復(隣接面を含まない)15.800円
複雑修復(隣接面を含む)  31.500円 p59

 大学人として、健康保険制度での診療報酬がまったく見合わない事や大学での自費料金について我々臨床家に公開していただいている事はありがたい事だと思う。しかしながら、大学人として、また学界を通じて広く国民にその実態を伝えてほしいと思う。
 ちなみにグーグルで「コンポジットレジン 自費」で検索すると、一面は患者さんの苦情相談か個人の歯科医院の症例紹介だけで、大学や学会でのコメント記事はない。
 私が自費について患者さんに説明しても、理解していただく患者さんは私の事を信頼していただいている方だけで、その家族、友人には必ずしも理解してもらっているとは限らない。単に高い歯医者、もうけに走っている歯医者と思われてしまう事もある。

 是非、大学関係者、学会、そして日本歯科医師会は健康保険制度における診療報酬(治療費)の実態について広く国民に伝える努力をお願いしたい。それが市井で真面目に取り組んでいる多くの歯科医を助ける事になり、結果として国民の健康に貢献する事につながるのだから。
 
 

 
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2010年11月14日
日本の社会保障 医療保険制度は大丈夫か?
 グーグルで「社会保障費 医療 予算 国際比較」で検索すると「図録社会保障給付費の国際比較(OECD諸国)」という記事があるので、ぜひそれをご覧いただきたい。
 そのサイトを開くと「社会保障給付費の国際比較(OECD諸国)(2003年)」というグラフがあり、そこに解説が加えられている。
 それによると日本は総計の対GDP比率が17.7%となっており、対象29カ国中、23位と社会保障費レベルの低い国にある。解説によるとヨーロッパ諸国は社会保障レベルが高い国が目立っており、社会保障レベルの低い国は2つのグループに分けられると書いてある。社会保障レベルの低い国は韓国、メキシコに代表される高齢化の比率が低く、社会がなお成熟途上にある開発途上国的な性格が強いグループと米国、カナダ、オーストラリアなど個人による自力救済的な考え方の強い英米系のグループである。そして日本はどちらのグループにも属していないにもかかわらず社会保障レベルが低い点に大きな特徴があるとも書いてある。
 つまり、日本は高齢社会で本来医療費がかかってしまうにも関わらず、ヨーロッパ諸国のように消費税率等税金を高くして、社会保障費にまわすこともしていないし、また米国等のように民間保険で医療費をまかなうようにもなっていないということである。
 国民は国民皆保険制度のもとで何でも高水準の医療が受けられると思っている。しかしながら、高齢化が世界でもまれなスピードで進んでいる日本において今まで機能してきた国民皆保険が果たして、現在、そして将来において機能しうるのか、大いに疑問である。
 現在いろいろな医療問題が起きており、たびたびニュースで報道されるが、果たしてすべてが医療サイドの問題であろうか?かなりの部分は社会保障制度に問題があるのではないかと思う。
 そして特に悲惨なのが歯科医療の分野である。グーグルで「国民医療費 歯科医療費」を検索すると「国民医療費の伸びの真相」という日本医師会のPDFファイルの記事がある。その中に「診療種類別 国民医療費の構成比」というグラフという1996年から2006年までの統計が載っているがそれによると歯科医療費の国民医療費に占める割合は右肩下がりに下がっている。
 歯科医療は入れ歯を作ったり、冠を作ったりする際に多くの材料を使用するし、またそれらを作成する歯科技工士に技工料という形で費用を払わなければならない。そして材料や技工料に消費税がついているにもかかわらず、それを国の定める診療費の中では考慮されていない。また、歯科医療は他の医療同様に、歯科衛生士等多くの人件費のかかる業種である。人件費や材料費が資本主義、自由経済下で上昇するのに対し、医療費は社会主義的な統制経済で押さえられている。それら国の行ってきた社会保障政策の中で起きているのが歯科医の四人が年収200万以下のワーキングプアーの問題である。この問題は一部報道で取り上げられたことがあるものの国会や中央社会保険医療協議会(中医協)で広く国民が知るような形で取り上げられたということを聞いたことがない。
 国が行っている社会保障政策に協力している歯科医師がなぜ貧困に苦しまなくてはならないのか?

 
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2010年11月10日
国民皆保険に国民は満足しているのか?
 日米の医療保険について国民性の違いということでブログを書いてきている。
 これはアメリカがオバマ大統領のもとで医療保険制度改革を行ったように、日本も抜本的な改革が必要ではないかという前提を基にしている。その際に国民性というのがあるのでどのような方向性で変革していったらよいのか、一つの考え方を述べていきたいと考えている。
 グーグルで「医療 満足度 世界」で検索すると「日本 医療の満足度15%、世界22カ国で最低レベル」というタイトルでいくつかの記事が並んでいる。このアンケート調査の結果のもとはロイター通信によるものであるようだ。さらに「ロイター通信 医療制度満足度調査」で検索すると日本医師会がこのことに対するコメントを載せており、22カ国がどのような国なのか分かる。また日医総研や日本医療政策気候の数字を上げ、日本人の医療に対する満足度はもっと高いと記している。
 そのことは「医療 満足度 世界」で検索したときの記事の中でQLife社長山内善行ブログでも病院満足度は58%と記している。ただ山内社長は今回のロイター通信の結果を医療制度の悪化にあるとしており、一方日本医師会は制度ではなく、患者さんの負担の問題が大きいとしている。しかし現行の国民皆保険制度下で、医療の高度化、人口の高齢化、経済の悪化による税収の落ち込みの中で国民皆保険制度を維持しようとしたならば、一部負担金の増加はやむをえないのではないかと思う。

 では論を進める前に世界の社会保障費はどうなっているのかを見てみる。やはりグーグルで「社会保障費 医療保険 予算 国際比較」で検索すると図録社会保障給付費の国際比較という記事があるのでそれを参考にしながらブログの更新をしていきたい。

 
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2010年11月01日
社会保険診療報酬支払い基金とは
 社会保険診療報酬支払い基金のホームページの基本理念を見てみると私たちの使命として以下のような文章がある。

 私たちは、国民の皆様に信頼される専門機関として、診療報酬の「適正な審査」と「迅速な支払い」を通じ、国民の皆様にとって大切な医療保険制度を支えます。

 しかし、前のブログで書いたように「適正な審査」のもとに困っている患者さんが充分な投薬を受けることができないことが分かる。
 同じようなことは他の医療の領域でも起こっているであろうし、事実歯科でも同様なことが起こっている。我々医療機関はほとんど社会保険診療報酬支払い基金の言いなりになるしかないのである。

 では社会保険診療報酬支払い基金はどのような組織であろうか?以前に厚生労働省の役人がここに天下りしていたと新聞に報道されたことがあるので、グーグルで「厚生労働省 天下り」で検索するとトップに「厚生労働省からの天下り先機関の具体的なリストやデータがあるサイトは」というものがありここを開くと厚生労働省のホームページアドレスがあり、それをクリックすると厚生労働省所管の法人として、特別民間法人の中に保険局所管として社会保険診療報酬支払い基金がある。また「回答する記者団」のものとするアドレスをクリックすると5代以上続く天下り先と報酬額(年額換算)として社会保険診療報酬支払い基金に天下りしたOBは理事長として年間11.376.000円もらっていたとある。

 天下りした役人がトップに座る組織は民間と呼べるのか?果たして社会保険診療報酬支払い基金はトヨタやソニーといった企業と同様に民間組織と同じと言えるのだろうか?
 トヨタやソニーなど民間企業は何かあると必ず報道がされ、国民の注目を浴びる。しかしながら充分な医療が行われないことの一因として社会保険診療報酬支払い基金が取り上げられることはほとんどない。批判を浴びるのは常に医者や歯医者である。

 
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2010年06月10日
産經新聞の記事から 医療政策の台風の目
 6月8、9、10日と産經新聞 話の肖像画に国立がん研究センター理事長の嘉山孝正先生のインタビュー記事が載っていたので、その中から抜粋して紹介したい。
 嘉山先生は国立がんセンターの独立法人化に伴って発足する国立がん研究センターの公募に応じ、初代理事長になられた方である。先生はまた厚生労働省の中央社会医療協議会(中医協)の委員にもなっておられる。記事には中医協を'’医療の値段'’を決めるところと説明しており、医療政策の「台風の目」となっていると紹介している。

 先生は中医協において、ドクターフィー(医者の技術料)について主張したとある.そしてこれが認められなければ、先生自身が中医協に入った意味がないとも述べておられる。これまでの保険診療の中で医者の技術料が認められなかったこと。外保連(外科系学会保健委員会連合)が「手術台の4割が糸代」というデータを出し国民も正しい認識を持ったということも述べておられる。そして医療の透明度を増し、エビデンスベースド診療報酬(根拠のある医療の値段)にしたいと抱負を述べておられる。
 頼もしい限りでありぜひとも頑張っていただきたいと思う。ただ、ここに歯科についての議論が入っているのか?このような先生に対し、日本歯科医師会としてはどのように対応しているのであろうか?
 外保連が診療報酬の中の材料料についてのデータを出したというが、歯科においても、補綴、保存など診療報酬の中で材料費が多くを占める診療科は多い。その比は医科以上ではないだろうか。 しかし、それらの学会が材料費用と技術料の割合やそれにもとづく適正医療費を算定し、提示したということも聞かない。
 日本歯科医師会や歯科の学会は外保連が行ったような調査を行い、国民に向けてその情報をぜひ発信してほしい。そして、嘉山先生のような方とも連携し、歯科医療の向上に努めていただきたい。
 折しも、参議院選挙を控え、歯科医療界の代表を国会に送るべく運動がされているが、もっと国民に向けた運動を行ってもらいたいものだと思う。


 
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